漫画版『追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する』のエドヴァン家編を考察します。
エルマを追放した父アイザス・エドヴァンは本当に息子を見捨てたのか、そして剣聖マリス・エドヴァンとの決闘は何を清算したのかを、原作の描写と照らし合わせながら読み解きます。
四人の主要人物の基本的な立ち位置は「転生重騎士はゲーム知識で無双する 登場人物・キャラ4人を解説」で整理しているので、本記事ではアイザスとマリスの内面と決闘の意味に絞って深掘りします。
この記事は漫画版の単行本3巻から4巻あたりの展開と、原作小説の内容に触れるネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。
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エドヴァン家の人物関係|アイザス・マリス・エルマの続柄を整理
まず、話の土台になる三人の関係をはっきりさせておきます。
エドヴァン伯爵家は代々〈剣聖〉を輩出して領地を守ってきた武門の家で、現当主がエルマの実父アイザス・エドヴァンです。
エルマはその本家の長子で、本来なら次期当主になるはずの立場でした。
マリス・エドヴァンは、アイザスの弟の娘、つまりエルマの従妹にあたる分家の少女です。
一人称は「ボク」で、エルマと同じ日に〈加護の儀〉を受け、〈剣聖〉を発現しました。
その場でアイザスはマリスを「今日からお前は我が娘」と抱き寄せ、エルマを追放してマリスを跡継ぎに据えます。
本家の跡取りが一日で入れ替わるという急展開ですが、この入れ替えが家の中でどう受け止められたかは、親族が誰も口を挟めなかった描写に表れています。
エドヴァン家では当主の言葉が絶対で、クラスとレベルがすべてを決める世界では、当主に逆らうこと自体が難しいのです。
父アイザスはエルマを見捨てたのか|追放の日に残された「親心」
アイザスは〈重騎士〉という結果を見た瞬間に激昂し、エルマを床へ引き倒して罵倒しました。
「外でエドヴァンの姓を名乗れば首を刎ねる」とまで言い放っているので、この場面だけを見れば冷酷な父親にしか見えません。
ただ、追放の前と後に置かれた描写を並べると、印象はかなり変わります。
加護の儀の直前、アイザスはエルマの肩に手を置き、勤勉に鍛錬を積んできたことは父である自分がよく知っていると励ましています。
儀式のためにわざわざ都市で最もレベルの高い神官を館に招いたのも、少しでもいいクラスを引いてほしいという願掛けでした。
エルマ自身も、父は自分勝手なところはあるが息子には厳しいながら優しい面もあったと振り返っています。
追放のときも、エルマは無一文で放り出されたわけではありません。
後にエルマは、父が装備を整えられるだけの金銭は渡してくれていたと気づきます。
そして何より、アイザスはエルマが死ぬ方向へ話が進むと、必ずどこかでブレーキを踏んでいます。
ロンダルムでの噂を聞いたときも、マリスが「処遇が甘い」と迫るまではギルドからの除名と警告で済ませるつもりでした。
決闘に際しても、マリスに向かって「殺すなよ」と釘を刺しています。
口では親子の情はないと言いながら、命だけは奪わせない線を最後まで守っていたわけです。
見捨てたのは次期当主としてのエルマであって、息子としてのエルマまでは切り捨てられなかった、というのが筆者の見立てです。
統治者アイザスの失敗|事実確認より体面を選んだ判断
とはいえ、アイザスを「本当は優しい父」とだけ評価するのは甘すぎます。
彼の最大の問題は、統治者として事実確認を後回しにし、結論から動いたことです。
エルマが短期間で異例の昇級を重ねていると聞いたとき、アイザスは家名を持ち出してギルドを言いなりにしたに決まっていると決めつけました。
エルマに長く仕えた私兵のトマスが「まずは事実の確認を」と懇願しても、怒りが先に立っています。
ギルドに乗り込んだ後も、ギルド長に結託を疑う言葉を浴びせ、関与した職員を連れて来いと命じました。
新人が〈夢の主〉を討伐できるなら貴族制度がひっくり返る、という彼の言い分は、この世界の常識としては理解できます。
しかし、常識に合わない報告を「不正」と決めつけて処分に動くのは、領主としては危うい姿勢です。
加護の儀の日も、彼は重騎士の性能をエルマから説明されかけたのに「どうでもよい」と遮りました。
二度とも、目の前の情報より家の体面を先に置いたことが判断を誤らせています。
アイザスは悪人ではありませんが、情報より面子を優先する当主であり、その欠点が息子を二度追い詰めたと言えます。
剣聖マリスの歪んだ執着|エルマが「大好き」だからこそ壊したい
エドヴァン家編のもう一人の主役が、剣聖マリスです。
読者の間ではマリスはエルマのことが大好きなのでは、という見方がよく語られますが、これは原作の描写から見てもその通りです。
マリスは物心ついた頃から本家の少年エルマに憧れていました。
正義感が強く、家臣にも慕われるエルマは、分家で日陰者として育った自分とは正反対の存在だったからです。
問題は、その好意の向かう先です。
マリスには、大事なものほど、愛しているものほど自分の手で台無しにしたくなるという悪癖があります。
エルマの部屋を引き継いだ際、彼の持ち物が捨てられていたことを惜しむ場面は、好意と破壊衝動が同居していることをよく示しています。
決闘の最中、マリスは世界の寓話〈蝋翼の天使〉が好きだと語ります。
分不相応に足掻いた者が順当に潰れる姿を見るのが好きで、それが憧れだったエルマなら格別だというのです。
つまりマリスにとって、エルマが強くなることは喜ばしいことでした。
奪うものが大きいほど、奪う悦びも大きくなるからです。
跡継ぎの座にも当主にも関心がないと独白している点も重要で、彼女の目的は最初から家ではなくエルマ一人でした。
ギルドで「父様」と呼んでアイザスを揺さぶり、模擬戦の提案を通したのも、すべてはエルマの前で彼の生き甲斐を奪うための段取りだったのです。
エルマvsマリスの決闘|〈影踏み〉〈死線の暴竜〉で剣聖を破るまで
エドヴァン家編の山場が、ギルドの中で行われたエルマとマリスの決闘です。
単行本3巻の紹介文が「剣聖VS重騎士」を前面に押し出し、4巻の紹介文で新スキル〈死線の暴竜〉による重騎士の覚醒が予告されている通り、漫画版でも屈指の人気エピソードになっています。
エルマが無謀に見える決闘を受けた理由
そもそも、エルマにはこの決闘を受ける義務はありませんでした。
無実を示すだけなら、時間をかけて別の方法で証明する道もありましたし、アイザス自身も模擬戦には乗り気ではありませんでした。
それでもエルマが受けて立ったのは、エドヴァン家への未練が自分の中に柵として残っていたと自覚したからです。
エンブリオ戦で単騎の足止めを買って出た無茶も、家を追われて役目を失った自分に価値を与えたい焦りから来ていたと、彼はここで振り返っています。
だからエルマは、力を認めたら金輪際自分に関わらないでほしいという条件を、決闘の前に自分から付け加えました。
この決闘は潔白の証明である以上に、エルマが自分の手で実家との縁に区切りをつけるための儀式だったわけです。
加護の儀で値札を貼られて家を追われた少年が、今度は自分で決めたルールの決闘で家を出ていく、という対比になっている点も見逃せません。
計算で組み立てた三つの課題
この決闘が面白いのは、エルマが序盤からほとんど攻撃に出ず、三つの課題をこなしながら戦っている点です。
一つ目はマリスの切り札〈金剛連撃〉を一度見ておくこと。
二つ目はマリスの決定的な隙を探ること。
三つ目は、自分のHPを四割以下まで計算して削らせることです。
序盤、エルマは盾で受けたついでに〈影踏み〉でマリスの影を踏み、跳び退こうとした彼女の体勢を崩して〈当て身斬り〉を一撃入れます。
これでマリスを本気にさせ、〈金剛連撃〉を引き出しました。
そしてHPが四割を切ったところで、ルーチェの支援で手に入れた〈燻り狂う牙〉にスキルポイントを振り、〈死線の暴竜〉を習得します。
〈死線の暴竜〉は残りHPが20%以下のとき攻撃力と素早さを100%上昇させる、一発逆転型の特性スキルです。
普通なら発動前に倒されるリスクが高すぎますが、エルマはHPを支払ってシールドを張る〈ライフシールド〉を重ねることで、安全に発動条件を満たしました。
観戦していたアイザスが「MPを捨てるようなものだ」と誤解した一手が、実は勝負を決める仕掛けだったわけです。
ステータスで並んだあとは、無理に四振り目を放つマリスの〈金剛連撃〉の隙を突いて刀を弾き飛ばし、〈シールドバッシュ〉で壁まで吹き飛ばして決着しました。
ゲーム知識と計算で格上のクラスを崩すという本作の魅力が、もっとも分かりやすく詰まった一戦です。
「エルマを、よろしく頼んだ」の意味|謝れない父の精一杯
決着の後、膝をついたアイザスは、ギルドに不正はなかったことを認めます。
エルマは去ろうとする父を「父様」と呼び止め、十五年間育ててもらった礼を述べて頭を下げました。
アイザスは何も答えません。
そこで食い下がったのが、ルーチェです。
彼女は貴族に向かって、どうして「ごめんなさい」の一言も言えないのかと詰め寄りました。
平民に説教されて見逃すような人物ではないため、エルマは彼女を庇おうとします。
しかしアイザスは扉に手をかけたまま背中越しに、ルーチェへ「エルマを、よろしく頼んだ」と絞り出しました。
この台詞が刺さるのは、謝罪の言葉が使えない人間が選んだ、ぎりぎりの代替表現だからです。
エルマ自身が後に語るように、この世界の貴族は舐められたら終わりで、頭を下げないのが仕事のようなものです。
平民に媚びず、情を見せないことを当主の作法として生きてきたアイザスにとって、息子へ直接詫びることは立場が許しません。
だから彼は、宛先を息子ではなく息子の仲間にずらし、「謝る」ではなく「託す」という形を選んだのでしょう。
エルマもこれを、アイザスなりの精一杯の謝罪だったのかもしれないと受け止めています。
和解と呼ぶには遠いものの、互いに別れの言葉を交わしたことで、エルマはようやく心置きなく前へ進めるようになりました。
独自視点|魔刀・水鴉はエルマへの贈り物だった
ここからは筆者独自の視点です。
決闘でマリスが振るった〈魔刀・水鴉〉について、マリスは戦いの前に意味深な一言を口にしています。
父様はキミにプレゼントするために隠れて準備していたそうだ、という台詞です。
つまりこの刀は、本来なら剣聖になったエルマへ渡されるはずだった贈り物でした。
アイザスの愛情は確かに存在していましたが、それは「剣聖になる息子」を前提に用意されたものだったわけです。
クラスが変わった瞬間、贈り物の宛先は息子からマリスへ移り、その刃がエルマ自身に向けられました。
そして決闘の最後、エルマはこの刀をマリスの手から弾き飛ばし、アイザスは黙ってその刀を拾い上げてギルドを去っています。
筆者はこの流れを、父が条件付きで用意していた愛情をエルマが自分の力で打ち落とし、父がそれを自分の手で回収した場面として読んでいます。
エルマが勝ち取ったのは、剣聖の息子としての承認ではありません。
重騎士のままの自分を、父に認めさせたことです。
だからこそアイザスの最後の言葉は、刀という形のある贈り物ではなく、「よろしく頼んだ」という形のない言葉になったのではないでしょうか。
もう一つ気になるのは、アイザスが昔からエルマとマリスを会わせるのを嫌がっていたことと、マリスが追放直後に、母から聞かされていた話は本当だったとひとりつぶやく場面です。
アイザスがマリスの気質に早くから気づいて遠ざけていたのか、家の中にまだ語られていない事情があるのかは、現時点では断定できません。
ただ、エドヴァン家の物語がこの決闘だけで完全に閉じたわけではないことを示す、伏線として覚えておきたい描写です。
エドヴァン家の今後|決別のその後とアイザスの再登場
決闘の翌日、エルマとルーチェはアイザスの治める都市ロンダルムを離れ、冒険者の都ラコリナへ拠点を移します。
エルマの中ではこれでエドヴァン家との決着はついており、以降の物語は冒険者としての成り上がりが中心になります。
ただ、原作小説を読み進めると、エドヴァン家はその後も物語の背景に残り続けます。
王国北方の大討伐をめぐって有力貴族の当主が集まる場面では、アイザスがエドヴァン伯爵家の当主として登場し、武功を誇りとする家の代表として他家と火花を散らします。
また、エルマは後に別の人物との会話を通じて、追い出された子息が家の秘密を安売りしているように見えた以上、あのときアイザスが激昂した理由も理解できると振り返っています。
追放の日には理不尽にしか見えなかった父の怒りを、エルマが少しずつ相対化していく流れは、親子関係がまだ完全には終わっていないことを感じさせます。
筆者は、重騎士として名を上げたエルマと、剣聖の家を背負うアイザスが、大討伐のような公の場で再び交差する展開に期待しています。
そのとき、敗北を知ったマリスがどんな形で戻ってくるのかも、エドヴァン家編の続きとして注目したいポイントです。
作品情報は講談社の単行本紹介文(3巻・4巻)とヤンマガWeb/コミックDAYSの連載情報、台詞や設定の細部は原作小説(小説家になろう掲載版)の該当エピソードで確認しています。
まとめ|アイザスは息子を見捨てきれず、マリスはエルマを手放せなかった
父アイザスは、剣聖の家の当主としてエルマを追放しながら、命を奪う一線だけは最後まで越えさせませんでした。
一方で、事実確認より体面を優先した判断が、息子を二度追い詰めたことも確かです。
剣聖マリスはエルマへの憧れを破壊衝動に変え、決闘の場でそれをぶつけましたが、〈影踏み〉と〈死線の暴竜〉を軸にしたエルマの計算の前に敗れました。
そしてアイザスの「エルマを、よろしく頼んだ」は、謝罪の言葉を持たない父が選んだ精一杯の託し方でした。
魔刀・水鴉の行方まで含めて読み返すと、エドヴァン家編は親子の決別であると同時に、重騎士のままのエルマが認められるまでの物語だと分かります。
重騎士と加護の儀の仕組みをもう一度押さえておきたい方は、「追放された転生重騎士 世界観・設定まとめ|重騎士と加護の儀を解説」もあわせて読んでみてください。
追放された転生重騎士はゲーム知識で無双するをコマで読み返すなら
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