恋するサイコの白雪くん考察|白雪を動かすのは恋ではなく晴樹が語った水槽の理屈だ

その他作品考察

『恋するサイコの白雪くん』は、縦読みマンガアプリpeepで連載中のスリラーです。

マンガ版は117話まで公開され、4.5点/6.3万件という、アプリ内でも最上位のレビュー数を集めています。

この記事は、無料公開されているチャットノベル版の第1話から第3話までの内容に触れるため、ネタバレを含みます。

この作品はたいてい、「サイコパスの美少年がイジメっ子を制裁していくスカッと系」として紹介されます。

間違ってはいませんが、その言い方だと、第1話で時枝晴樹(ときえだ はるき)が水槽の前で口にした理屈を、まるごと素通りしてしまいます。

本作を動かしているのは、白雪姫嵩(しらゆき ひめたか)の狂気ではありません。

晴樹が自分の口で説明した「ディスカスの原理」という、たった一つの理屈のほうです。

ちなみに、同じpeepの作品を、主人公の短い一言から読み直す手つきは、以前書いた小悪魔教師♡サイコ考察|葛西心春は復讐していない、ただ一度も「困っていない」だけだと同じです。

あちらは「困らない人間」の話で、こちらは「困りすぎた人間が出した答え」の話になります。

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晴樹が語った「ディスカスの原理」が、この物語の設計図です

物語は生物室から始まります。

実験台に仰向けで押さえつけられているのが晴樹で、その上に折原圭祐が乗り、鷹木仁志がペットボトルの水を顔の上から浴びせ、平山玲央奈がスマホで撮影しています。

折原が片手で捲っているのは「拷問大全」という本で、彼はそこに書かれた手順を読み上げながら「ウォーターボーディングって言うんだって」と笑っています。

この場に白雪が入ってきて3人が去ったあと、晴樹は水槽から飛び散った魚を一匹ずつ拾い始めます。

手伝う気のない白雪が「なんでやり返さないの?」と聞き、晴樹はこう答えます。

この魚はディスカスといって、一番弱いもの、小さいものを攻撃する習性がある。

俺がもし抵抗して、あいつらが俺へのイジメを辞めたとする、そうしたらまた違う奴がイジメられる、エンドレスなんだよ。

誰かがイジメられるなら、別にそれは俺でいい。

晴樹は全部の魚を水槽に戻し、減った分の水を足して、教室を出て行きます。

残された白雪の返事は「なにそれ。全然意味がわかんない」でした。

ここからが本作の起点です。

白雪は晴樹の言葉を理解していません。

彼が理解したのは、そのあとに自分で見た水槽の図のほうです。

一番大きな個体が小さいものを突っつき、続いて二番目に大きい個体も体当たりする。

それを見た白雪は「ふうん。こーゆうこと」と言って、水槽をじっと見つめ続けます。

同じ習性を観察して、二人はまったく逆の結論を出しました。

晴樹は「弱い個体は必ず突かれる、だから自分が引き受ける」と考え、白雪は「弱い個体は必ず突かれる、だったら順番を入れ替えればいい」と考えたのです。

以降の3話分に起きることは、全部この一点から出ています。

白雪姫嵩の第一声が「馬鹿なの?」だったことの意味

白雪が生物室で最初に発した言葉は、悲鳴でも制止でもなく「馬鹿なの?」でした。

続けて彼が言うのは、こういう内容です。

窒息させたいんでしょ、だったら濡れた布をかけないとだめじゃん、密閉状態を作らないと、それじゃあいつまでたってもただの水浴びだよ。

とどめが「原理もわからないでやってるなんて、ある意味驚きなんだけど」です。

これは助けに入った人間の台詞ではありません。

技術的な駄目出しです。

彼が問題にしたのは人を傷つけていることではなく、その手つきが下手であることでした。

そして彼は、殴られた直後にタオル掛けの雑巾を取り、水槽に突っ込んで濡らし、鷹木に差し出しながら「説明でわからないなら、キミで試してみる?」と言います。

この時点で白雪はまだ晴樹の名前も知りません。

つまり彼は誰かを助けたのではなく、雑な仕事に口を出しただけです。

ここで見逃せないのが、折原が「拷問大全」を読みながら加害していたことです。

3人の暴力は本からの引用で、白雪の暴力は自前でした。

作品は開始数ページで、この美少年が味方ではないことを読者に通告しています。

折原圭祐・鷹木仁志・平山玲央奈の3人は、そのまま水槽の序列です

晴樹をいじめている3人には、それぞれ役割が振り分けられています。

折原圭祐は「拷問大全」を読み上げる役で、手順を調べて指示を出す立場にいます。

鷹木仁志は実際に手を出す役で、殴る、水をかける、押さえつけるといった実行を全部引き受けています。

平山玲央奈は撮る役で、写真を撮り、次は動画で撮ると宣言し、嫌がらせの内容を考える立場にも回ります。

知識と、暴力と、記録。

この3つが揃ってはじめて、彼らの加害は「作品」として成立しています。

興味深いのは、第2話で白雪が仕掛ける反撃が、3人それぞれの持ち場に正確に当たっていることです。

玲央奈が用意したユリの花束は、生け花の作法という彼女より上の知識で上書きされました。

鷹木が仕掛けたトイレの閉じ込めは、ガラスを蹴り破るという、彼より上の物理的な手段で破られました。

折原たちが黒板に書いた嘘の時間割は、2階から飛び降りるという、想定の外側の手順で無効化されました。

白雪は相手の弱点を突いているのではなく、相手が一番得意にしている領域で、一段上の水準を見せつけています。

そしてこの3人自身が、鷹木を頭とする小さな序列でもあります。

その鷹木の上に、さらに上級生がいる。

水槽の図は、教室の中だけでは閉じていません。

白雪は鷹木仁志を殴らず、鷹木の上にいる上級生を探します

第2話以降、白雪は3人に対して次々と反撃しますが、そのどれもが殴り返す形をとりません。

机の上に嫌がらせで生けられたユリの花束には「器に対して、花が多すぎる」と言って花を抜き取り、素手で茎を折り、花瓶を整えます。

そして「あ、しまった。水が多すぎた」と言いながら、その水を鷹木の頭の上から浴びせ、「自分の器にあった花を生けないとね」と締めるのです。

トイレに閉じ込められれば曇りガラスを蹴り破って出てきます。

黒板に嘘の時間割を書かれて生物室へ行かされれば、2階の窓からグラウンドへ飛び降り、片膝をついて着地して「はい。僕はここにいます」と手を挙げます。

共通しているのは、相手を殴っていないことです。

彼がやっているのは、相手が作った枠のほうを無効にする作業です。

そして第3話で、白雪は決定的なものを見つけます。

廊下で上級生の集団とすれ違ったとき、そのうちの一人が鷹木の頭を叩いたのです。

玲央奈と折原に「なに今の?」と聞かれた鷹木は、「は?なんかした?気づかなかった!」と誤魔化しました。

その背後を歩いていた白雪は、口の端を上げてこう漏らします。

「……ふうん」

この瞬間、白雪は水槽の全体図を手に入れました。

ディスカスの原理は「弱いものが突かれる」という法則ですが、裏を返せば「どの個体にも必ずもっと大きい個体がいる」という法則でもあります。

晴樹はこの法則を、抵抗を諦める理由として使いました。

白雪は同じ法則を、そのまま使える地図として読んでいます。

「これでいいの……?」と言った猿渡は、白雪の側に立っています

第3話でもう一人重要になるのが、鷹木たちにものまねを強要されている猿渡です。

昼休みの教室で、彼は教師のものまねを次々にやらされ、「鷹木君、そろそろ弁当食べたいな」と頼んでも解放されず、結局そのまま美術の授業に走らされます。

助ける者は誰もいませんでした。

3人が出て行った教室で、白雪だけが、手つかずのまま残された猿渡の弁当箱を見下ろしています。

放課後、鷹木は上級生に呼び出され、ドリンクを買ってこいと小銭を投げつけられます。

自動販売機の前で金が足りずに焦っている鷹木の手に、横から小銭を足したのが猿渡でした。

ここから猿渡は、鷹木に対して妙に的確な質問を重ねていきます。

さっき殴られてたよね、あれ本気だったよね、あの人たちって悪い意味で有名だよね、たったそれだけで絡まれてるの、らしくないよ、そんなにあの人たちが怖いの。

キレた鷹木は買ったばかりのアイスコーヒーで猿渡のこめかみを殴り、そして言い放ちます。

俺は今だけあいつらの言うことを聞いてるフリをしてる、あいつらが卒業したらマジでぶっ殺してやる、一人ずつ追い詰めて、確実にな。

鷹木が校舎に戻ったあと、猿渡はこめかみから流れる血を拭いながら振り返り、こう言います。

「これでいいの……?」

その視線の先には、スマホを構えた白雪が微笑んで立っていました。

この一行で、直前の会話の性質がまるごとひっくり返ります。

あれは偶然の説教ではなく、白雪が用意した台本でした。

猿渡はいじめられたまま、白雪の道具として使われています。

そして白雪自身は、この一連の中で誰にも一度も手を出していません。

彼が使ったのは、鷹木に踏みつけられていた人間と、鷹木自身の口だけです。

これがディスカスの原理の実装です。

水槽の外から手を入れるのではなく、水槽の中の魚だけを使って、順番を組み替えているのです。

「殺す」と最初に言ったのは白雪ではなく鷹木仁志のほうです

本作のキャッチコピーは「キミのためなら、みんな殺すよ。」で、これは当然、白雪の台詞として売られています。

ところが無料の3話を通して読むと、作中で実際に「殺す」と口にしているのは鷹木だけです。

白雪は一度も殺意を言葉にしていません。

逆に鷹木は、その言葉を口にしながら、実際には上級生に叩かれても「気づかなかった」と誤魔化して走らされています。

この非対称が、本作の恐怖の設計そのものだと思います。

言う人間は実行せず、実行する人間は言わない。

だから読者が本当に警戒すべきなのは、白雪の残虐さではなく、彼が何も宣言しないことのほうです。

同じことは、スマホの使われ方にも表れています。

玲央奈は晴樹を溺れさせながら写真を撮り、次は動画で撮ると言いました。

3人の加害には必ず、笑い声と撮影がついてきます。

彼らの暴力は、誰かに見せるためのものだからです。

一方、第3話の白雪が構えているスマホは、公開するためではなく、記録して手元に置くために構えられています。

まったく同じ道具が、まったく違う目的で握られているわけです。

公式のあらすじにある「次の日から同級生が一人、また一人と姿を消していく」という展開も、この延長線上にあると推測できます。

ただし無料範囲では、まだ誰一人として消えていません。

この3話で起きているのは、殺人ではなく、素材の収集です。

白雪の「好きになっちゃったかもしれない」は、恋ではなく分類作業です

第2話の放課後、晴樹は白雪に詰め寄られて、こう叫びます。

誰かがやられるのを、傷つくのを見たくない、自分がやられてた方が楽なんだよ、俺は。

このとき白雪が心の中で並べている言葉を、順番どおりに見てください。

まただ、また、この感じ。

たまらなくドキドキする。

僕は、この子のことを知りたい。

もっと、もっと。

そしてようやく出てくるのが「これかも……」「これがもしかして人を好きになるってことなのかも」です。

注目すべきは、「かも」が二回続いていることです。

彼は感情を告白していません。

自分の中に起きた未知の反応に、手持ちの語彙の中から一番近そうなラベルを、仮に貼っているだけです。

しかも彼が唯一はっきり言語化できた中身は「好き」ではなく「知りたい」でした。

この「知りたい」という動詞は、第1話で彼が水槽をじっと見つめていたときの動詞とまったく同じものです。

白雪にとって晴樹は、理解できない挙動をする観察対象であり、ディスカスと同じ棚に置かれています。

続く申し出の形も、恋愛の告白にはなっていません。

「もしイジメが完全になくなったら、僕と付き合ってよ!」というのは、条件と報酬が明記された取引です。

晴樹が逃げようとした腕を掴む白雪の力について、地の文はわざわざ「華奢な身体からは想像できないほど、その力は強い」と書き添えます。

おどおどしながら「も、もしなくなったらね」と答えて出て行く晴樹の背中に、白雪は「約束だよ。晴樹君」と言い、口の端を引き上げて笑いました。

ここで成立したのは恋愛関係ではなく、片方だけが履行する契約です。

「それじゃ、意味がないんだ」と叫んだ時枝晴樹こそ、この物語の主人公です

ここまで白雪の話ばかりしてきましたが、行動の理由をいちばん明確に語っているのは晴樹のほうです。

第2話で晴樹は、白雪の反撃に対して感謝ではなく怒りを返します。

花瓶の件も体育の時も、あんなことしてたらますます目を付けられるだろ。

白雪が「ディスカスの原理で行くと、それでキミが助かるんだろ」と返すと、晴樹はこう叫び返しました。

だからそれじゃあ意味がないんだよ、どうせ誰かがやられるなら、俺でいいんだって。

この台詞は、一見すると自己犠牲の言葉に読めます。

ですが、よく見ると内容が違います。

晴樹は「自分が耐える」と言っているのではなく、「この水槽で誰が突かれるかを、自分が決めている」と言っているのです。

彼は被害者の位置にいながら、教室全体の配役を一人で確定させています。

だから白雪が順番を入れ替えようとすると、感謝ではなく怒りが出てくるわけです。

晴樹にとってそれは、救済ではなく、決定権の侵害だからです。

そう読むと、この二人が噛み合ってしまう理由もはっきりします。

晴樹は水槽の配置を自分で決めたい人間で、白雪は水槽の配置を組み替えられる人間です。

目的が同じで、方法だけが違う。

本作のタイトルには「恋する」と入っていますが、無料範囲で成立しているのは恋愛ではなく、この一致のほうです。

章タイトル102本を並べると、イジメ編は物語の一区画にすぎません

チャットノベル版は102話、マンガ版は117話まで進んでいます。

無料で読めるのは3話までですが、章タイトルの一覧そのものは全部確認できます。

並べてみると、この作品の全体像がはっきり見えてきます。

序盤に置かれているのは「助けてくれたのは、悪魔でした」「本当の化け物」「折原の拷問レポート」「目には目を、豚には豚を」といった、制裁編らしい題です。

ところが31話あたりから語彙が入れ替わります。

「マドンナの早乙女さん」「いばら姫の秘密」「私の理想の王子様」「そして姫は夢の世界へ」「みにくいアヒルの子」と、童話の言葉が並び始めるのです。

56話以降はさらに舞台が変わり、「突然のスカウト」「サイコのオーディション」「カーテンコール」「新宿サイコ東京公演」と続きます。

88話からは「声優事務所シレーナワークス」「声オタの本気」と、また別の業界に移っていきます。

つまりイジメと制裁は序盤の一区画で終わっていて、物語の大半は、白雪が学校の外にある別の集団へ次々に置かれていく話になっています。

具体的な展開は有料範囲なので断定はしませんが、タイトルの並びから読める傾向としては、水槽を取り替えながら同じ実験を繰り返す形式に見えます。

そのうえで面白いのが、そこに童話の語彙が挟み込まれていることです。

主人公の名前は白雪姫嵩で、白雪姫そのものが名前になっています。

章タイトルにも「いばら姫」「みにくいアヒルの子」が入ってきます。

童話は本来、弱い者や醜いとされた者が最後に報われる話の原型です。

ディスカスの水槽は、その真逆の法則で動いています。

本作は、童話の名前を背負った少年を、童話が絶対に成立しない水槽の中に放り込んでいるわけです。

読者が「イケメン」と書き込む場所は、平山玲央奈が立っていた場所です

peepのコメント欄を開くと、この作品の読まれ方がよくわかります。

マンガ版に並ぶのは「やばイケメンですやん惚れそう」「絵がきれいすぎる」「イケメンちゃんがやるのは格が違うね」といった声です。

中でも象徴的なのが「濡れ雑巾を口に当てる所の抱き抱え方や支える手が美しく格好いい…所作もイケメン」というコメントでした。

人を窒息させる手順が、美しく格好いいものとして書き込まれているのです。

これは読者が鈍いという話ではありません。

作品のほうが、最初からそう読ませる構えになっています。

第1話で、鷹木に殴られた白雪を見た平山玲央奈は、こう言いました。

かわいそー、あーあ、綺麗な顔に傷つけちゃって。

彼女は、その数分前まで晴樹の顔に水をかけて撮影していた人物です。

同じ口が、白雪の顔だけを惜しんでいます。

つまりこの作品には、暴力よりも顔を見る観客が、第1話の時点で作中に配置されているのです。

そして読者のコメント欄は、それとまったく同じことをしています。

ノベル版のコメントで最も多いのも「BL」と「やばい」で、拷問大全を片手にした暴力の話に対して、読者は関係性のほうを読み取っています。

6.3万件のレビューと55.9万のいいねは、スカッとした記録であると同時に、玲央奈と同じ椅子に座り続けた記録でもあると思います。

白雪が観察されているのではなく、観察の癖を試されているのは読者のほうかもしれません。

本記事で扱った作品情報・章タイトル・読者コメントは、いずれもマンガアプリpeepで公開されている内容にもとづいています。

まとめ

『恋するサイコの白雪くん』は、サイコパスの美少年による制裁劇として読まれています。

ですが無料の3話を読み直すと、この物語を起動したのは白雪ではなく、時枝晴樹のほうだとわかります。

一番弱いもの、小さいものが必ず突かれるという同じ観察に対して、晴樹は「だから自分でいい」と答え、白雪は「だったら順番を入れ替える」と答えました。

だから白雪は鷹木仁志を殴らず、鷹木の上にいる上級生を探し、猿渡に台本を渡し、鷹木自身の口から「殺す」という言葉を引き出して記録します。

彼の恋も同じ延長線上にあって、「好きになっちゃったかもしれない」の中身は、理解できない個体をもっと知りたいという観察欲でした。

読むときは、白雪が何をしたかではなく、その手順のどこにも晴樹の理屈が使われていることを見てみてください。

無料の3話だけで、この設計図は最後まで読み取れます。

そして、他人の関係が採点され、消費されていく構造をもう一歩ひろげて考えたい方は、同じpeepで「愛」そのものが賞品になるカップルゲーム考察|このゲームが測っているのは愛ではなく、「愛」という言葉の使い道であるもあわせて読んでみてください。

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ここで書いた読み方を頭に入れて読み返すと、同じ場面でも見えてくるものが変わります。DMMブックスなら試し読みから電子で読めます。

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