『追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフを謳歌する。』、通称『チー付与』は、主人公レイン・ガーランドがギルド「王獣の牙」を追放されるところから始まる物語です。
ところがアニメや漫画を見進めるうちに、「レインが追放された理由、なんとなく分かる気がする」と感じた人も多いのではないでしょうか。
この記事では、チー付与でレインが追放された理由を、ギルドマスターのバリオスら王獣の牙側の事情、レインの人物像、そして強化ポイントを解除したあとのギルドの顛末から考察します。
漫画版の先の展開にも触れるため、ネタバレ注意でお読みください。
なお、原作小説ではまったく違う理由で追放されている点については、チー付与 原作と漫画の違いとは?「99割違う」小説版との差を考察【ネタバレ注意】で詳しくまとめています。
チー付与 レインが追放された理由とは?バリオスの「ウチも1人追放するか」
まずは、アニメと漫画版でレインが追放された理由を整理します。
レインは冒険者ギルド「王獣の牙」で働く強化付与魔術師で、武器や防具などあらゆるものに「強化ポイント」を付与できます。
その強化ポイントは、レインの意思でいつでも解除できるという特徴を持っています。
アニメ第1話の公式あらすじでは、レインはギルドマスター・バリオスの気まぐれで、突然ギルドから追放されると紹介されています。
同じページには、第1話を象徴するセリフとして「よっしゃ!それじゃウチも1人追放するか」という一言も掲げられています。
つまり漫画版とアニメの追放は、レインに大きな失敗があったからでも、ギルドの経営が苦しかったからでもありません。
読者の間では、追放の理由は「追放が流行っているから」と「ウザいから」だったとされます。
追放ものというジャンルそのものをネタにしたような、あまりにも軽い動機です。
アニメ公式サイトのキャラクター紹介でも、レインは「些細な理由で」王獣の牙を追放されたと書かれています。
公式の側も、追放の理由が深刻なものではないことをはっきり認めているわけです。
普通の追放ものであれば、ここで視聴者の怒りはすべて追放した側に向かいます。
ところがチー付与では、物語が進むほどにその怒りがしぼんでいき、むしろ「追い出したくなる気持ちも分かる」という声に変わっていきます。
その理由を探るために、まずは追放した王獣の牙側の顔ぶれを見ていきましょう。
王獣の牙側の事情|バリオス・グレンダ・コーネリアスの立場
レインを追い出した王獣の牙は、アニメ公式サイトに3人の主要人物が紹介されています。
1人目は、ギルドマスターのバリオスです。
公式サイトでは「ギルドからレインを追放する」人物と紹介されており、追放を決めた張本人です。
2人目は、副ギルドマスターのグレンダです。
冷淡な性格でありながら、ギルドメンバーからの信頼は厚いとされています。
3人目は、王獣の牙に所属する冒険者のコーネリアスです。
自分の目的のためには手段を選ばない狡猾な性格と紹介されています。
この3人を見ると、王獣の牙が単純な悪役集団ではないことが分かります。
バリオスは軽いノリで追放を決める一方、組織を実際に支えているのはメンバーから慕われるグレンダです。
そこに、ギルドの混乱を自分の利益に変えようとするコーネリアスが加わります。
トップの判断は軽く、現場には人望のある副官がいて、内側には野心家が潜んでいる。
どこの組織にもありそうな構図だからこそ、王獣の牙の人たちは妙に生々しく見えます。
そしてバリオスの立場から見ると、レインは「何をしているのかよく分からないのに、とにかく騒がしい人」に映っていた可能性があります。
強化ポイントの効果は、武器や防具を見ただけでは分かりません。
レインの貢献が目に見えないものだったからこそ、気まぐれひとつで切れてしまったと考えられます。
レインの人物像|追放された理由が納得できてしまうズレた真面目さ
チー付与で「追放された理由が納得できてしまう」と言われる最大の原因は、レイン本人の人物像にあります。
アニメ公式サイトでは、レインはどんな状況でも目の前の人を助けようとするお人好しと紹介されています。
その一方で、シリアスな状況でもボケや奇行を繰り返す変人であり、仲間からはいつも呆れられているとも書かれています。
主人公の紹介文に「変人」と明記されている作品は、そう多くありません。
レインのズレっぷりは、アニメの各話サブタイトルにもよく表れています。
第1話のサブタイトルは、何も上手くいかないときは叫びながら走るんだ、という趣旨の長い独白です。
追放された直後の主人公が、落ち込むのでも怒るのでもなく、叫びながら走ることを選ぶわけです。
第3話のサブタイトルでは、2年間引きこもっていた仲間の謝罪に同行した先でうさぎりんごを出してもらえたから、もう許すということだと思う、と結論づけています。
相手の気持ちを真剣に読み取ろうとしているのに、たどり着く答えがどこかずれている。
レインのボケは、ふざけているのではなく、本人なりに大真面目に考えた結果として出てくるのが特徴です。
第4話のサブタイトルに至っては、ここまで二回も全裸になってしまった自分だからこそ分かったことがある、と語り始めます。
強化した服が戦闘で破壊されて全裸になる場面は、レインのお約束のひとつです。
漫画版では、戦闘後に服が破けて全裸になっても平然としていたり、独特の笑い声を上げたりする奇行が、リリィやマーガレットからたびたびツッコまれるとされます。
周囲から「隠れてお酒を飲んでいるのでは」と疑われるほどの変人ぶりで、それが王獣の牙をクビになった理由にも大きく関わってくるとされています。
ここで大事なのは、レインが決して悪い人間ではないことです。
目の前の人を助けようとする優しさも、困っている仲間に付き合う誠実さも、本物です。
ただ、その誠実さの出し方に常識が追いついていません。
職場の同僚として毎日一緒にいたらどうだろう、と想像したとき、多くの人が「悪い人ではないけれど、ちょっと疲れる」と感じてしまう。
視聴者がバリオスに少しだけ同情してしまうのは、この感覚がリアルだからでしょう。
強化ポイント解除で王獣の牙はどうなった?連れ戻し計画と崩壊
追放された理由には納得できる部分があっても、その後の展開ではっきりするのは、王獣の牙がレインの価値を見誤っていたということです。
アニメ第1話のあらすじによると、追放されたレインは、ギルドメンバーの武器や防具に付与してきた強化ポイントをすべて解除します。
そして、その強化ポイントを使って、冒険者としてのセカンドライフを始めることを決意します。
第2話では、帰り道で王獣の牙のコーネリアス一行と遭遇したレインが、メンバーの武器や防具への強化付与をすべて解除したことを本人たちに告げます。
こっそり仕返しをするのではなく、正面から伝えてしまうところにも、レインらしいまっすぐさが出ています。
第4話では、強化付与が解除されたことを知った王獣の牙が、ギルドの弱体化を恐れてレインを強制的に連れ戻そうと画策します。
気まぐれで追い出した相手を、今度は力ずくで取り戻そうとするわけです。
同じ混乱に乗じて、コーネリアスは暗殺者のミラベルを雇い、副ギルドマスターのグレンダの殺害を計画します。
レインの追放は、ギルドの戦力を落としただけでなく、内部の権力争いまで表に引きずり出すきっかけになりました。
漫画版のその後では、王獣の牙は追放から間もなく空中分解し、バリオスはギルドマスターの地位を失うとされます。
バリオスは自らギルドを解散し、キッチンカーを開いて第二の人生を歩み始め、レインとも和解したとされています。
しかし、そのバリオスもやがて、王獣の牙を離れた元団員たちの集団「半グレ」のメンバーによって命を奪われるとされます。
タイトルにある「残った人たち大丈夫?」という問いに対して、漫画版はかなり重い答えを用意しているのです。
強化を失って弱くなったのは、武器や防具だけではありませんでした。
大手ギルドという看板に守られていた人たちの居場所そのものが揺らぎ、グレンダを慕っていた若い冒険者たちは、やがて自分の意思でギルドを去っていったとされます。
レインが強化を解除した一瞬の判断は、本人の想像をはるかに超えて、多くの人の人生を動かしていきました。
気まぐれの追放と、迷いのない強化解除。
どちらも軽い決断に見えて、その代償はあまりにも大きかったと言えるでしょう。
原作小説の追放理由との比較|「給料の無駄」と「気まぐれ」
漫画版の追放理由の特徴は、原作小説と比べるとよりはっきりします。
小説家になろうに掲載されている原作小説の第1話では、レインは13歳から7年間所属してきたギルドを一方的にクビにされます。
ギルドマスターが告げた理由は、もう十分に強力な武器や防具がそろったから、というものでした。
三人の副マスターや百人以上のギルド員も、レインを用済みだと笑い、便利な道具のように扱います。
傷ついたレインは、所属冒険者512人の武器と防具に付与したすべての強化ポイントを解除します。
原作小説の第4話では、ギルドマスターのバリオスが、強化を終えたし給料の無駄だから追い出したとは言いづらい、と内心で考える場面もあります。
さらに第8話では、ギルドのクエスト達成率が九割以上から二割前後にまで落ち込み、十五連続でクエストに失敗する様子が描かれています。
原作小説の追放は、レインを道具扱いした側が報いを受ける、典型的な「ざまぁ」の構図です。
読者はレインに感情移入し、追放した側を責めるように設計されています。
一方の漫画版とアニメは、追放の理由を気まぐれに変え、さらにレインを変人として描きました。
その結果、読者はレインにも追放した側にも、少しずつ共感と疑問を抱くことになります。
どちらか一方だけが悪いとは言い切れない。
この曖昧さこそが、漫画版の追放を「納得できてしまう」ものにしている正体だと考えられます。
アニメで追放側に納得してしまう声が多い理由|チー付与ならではの3つの仕掛け
ここまでの内容を踏まえて、アニメの視聴者が追放した側に納得してしまう理由を3つに分けて整理します。
1つ目は、追放の理由が軽すぎて、怒りをぶつける先がはっきりしないことです。
原作小説のように「用済みだ」と嘲笑されれば、視聴者は迷わず追放した側を悪者だと感じます。
しかし「ウチも1人追放するか」というノリで追い出されると、ひどい話ではあっても、どこか笑い話のように受け止めてしまいます。
深刻な悪意が見えないぶん、追放した側への憎しみも育ちにくいのです。
2つ目は、レイン本人がまったく被害者らしく振る舞わないことです。
追放された主人公が泣き崩れたり復讐を誓ったりすれば、視聴者は自然とその味方になります。
ところがレインは、叫びながら走り、服が破けて全裸になり、シリアスな場面でもボケを挟み続けます。
同情するより先にツッコミたくなる主人公なので、追放の悲しさが笑いに上書きされていきます。
3つ目は、王獣の牙の人たちにも人間らしい事情が用意されていることです。
メンバーから信頼されるグレンダがいて、ギルドの弱体化に本気で慌てる姿があり、漫画版ではバリオスにも第二の人生が描かれるとされます。
追放した側がただの踏み台ではなく、それぞれの人生を持った人として描かれるから、視聴者は彼らの言い分にも耳を傾けてしまうのでしょう。
この3つが重なることで、チー付与の追放は、よくある「ざまぁ」とは違う見え方になっています。
独自考察|バリオスの失敗は「変人を追い出したこと」ではなかった
ここからは筆者の考察です。
レインの奇行を見ていると、人としてはバリオスの判断にも一理あると思えてきます。
しかし、王獣の牙が崩れた本当の原因は、変人を追い出したことそのものではないと筆者は考えます。
問題は、バリオスたちが、自分たちの強さが何に支えられているのかを知らなかったことです。
強化ポイントは目に見えず、しかもレインの意思ひとつで解除できます。
つまりギルドの戦力の一部は、最初からレインに預けられていたようなものでした。
その事実を把握しないまま、気まぐれで手放してしまったことが、バリオスの最大の失敗です。
もうひとつ面白いのは、レイン自身も自分の価値をうまく説明できる人物ではないという点です。
シリアスな場面でボケてしまう人は、どれだけ大事な仕事をしていても、周囲から「ふざけている人」に見えてしまいます。
レインの貢献が正しく評価されなかったのは、バリオスの見る目がなかったからだけでなく、レインの変人ぶりが価値を覆い隠していたからでもあるでしょう。
だからこそ、レインを拾った青の水晶の存在が際立ちます。
青の水晶のギルドマスターであるエルシーは、公式サイトで、挫折した冒険者のサポートに徹している人物と紹介されています。
受付嬢のニーナも、追放されたばかりのレインを自分たちのギルドに誘いました。
奇行の多い主人公を、変わり者だからと切り捨てず、そのまま受け入れる場所がある。
チー付与の追放は、レインがかわいそうな被害者だったという話ではありません。
同じ人間でも、置かれる場所によって「追い出したくなる人」にも「いてくれてよかった人」にもなる、という話なのだと筆者は考えます。
視聴者が「追放された理由が納得できる」と笑いながら見ているあいだに、物語は少しずつ、居場所とは何かという問いへ踏み込んでいきます。
アニメ後半で王獣の牙の人たちがどう描かれるのかにも注目したいところです。
本記事のキャラクター紹介と各話の内容は、TVアニメ『追放されたチート付与魔術師は気ままなセカンドライフを謳歌する。』公式サイトと講談社の単行本紹介文、原作小説の本文をもとにしています。
原作漫画は業務用餅さんによる作品で、講談社「月マガ基地」で連載されています。原作小説は六志麻あささんの作品です。
レインやバリオスの心理、追放の意味に関する部分は、筆者個人の考察であり、公式設定ではありません。
まとめ
チー付与の漫画版とアニメで、レインはギルドマスター・バリオスの気まぐれによって王獣の牙を追放されます。
追放の理由は「流行っているから」「ウザいから」という軽いものとされますが、シリアスな場面でもボケ続けるレインの変人ぶりを見ていると、追い出したくなる気持ちも分かってしまうのがこの作品の面白さです。
それでも、強化ポイントを解除された王獣の牙は弱体化し、連れ戻し計画や内部の争いを経て崩れていきました。
バリオスの本当の失敗は、変人を追い出したことではなく、自分たちが何に支えられていたのかを知らなかったことだと筆者は考えます。
王獣の牙を離れた元団員たちがその後どんな道を選んだのかは、半グレ編の考察記事でまとめているので、あわせて読んでみてください。
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