『追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する』の作中ゲーム〈マジックワールド〉は、ゲーム開発の目線で見るとクソゲーなのでしょうか。
この記事では原作に書かれた仕様を項目ごとに点検し、理不尽な点と筋が通っている点を比べて判定を出します。
原作第一章から第四章の内容に触れるため、ネタバレ注意です。
なお、ゲームとこの世界の同じ点と違う点については『追放された転生重騎士 マジックワールド考察|この世界はゲームそのものなのか』で詳しくまとめています。
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マジックワールドの判定基準|廃人エルマの評価をそのまま信じない
最初に、判定の物差しを決めておきます。
エルマは一日二十時間を費やした日もあるほどの廃人プレイヤーなので、彼が楽しそうに語っているだけでは良作の根拠になりません。
そこでこの記事では、努力が無駄になりにくいか、必要な情報に手が届くか、ルールが一貫しているかの3点で見ていきます。
この世界の住人にとっての過酷さは脇に置き、死んでもやり直せるオンラインゲームとして遊ぶ場合に限って考えます。
重騎士の調整|サービス開始から5年も欠陥扱いだった最強クラス
一番目立つ問題は、重騎士というクラスの扱いです。
原作第一話によると、重騎士は守り特化なのに応用が利かず、攻撃性能も低いため、サービス開始からしばらくは欠陥クラスと呼ばれていました。
効率よくレベルを上げることが育成の要なのに、能動的に攻撃できないクラスだったからです。
ところが有志の解析チームが検証した結果、膨大な知識と技量を前提に最強格を圧倒できるクラスだと分かります。
それが判明したのは、サービス開始から実に5年後でした。
開発目線で見ると、これはかなり危うい状態です。
第二話の説明では、専用スキルツリー〈重鎧の誓い〉を最大にするには最短でも【Lv:96】まで掛かり、途中の性能だけでは強さが伝わりません。
第十三話では、重騎士はキャラメイクのクラス診断でも出現ルートが狭く、運営が玄人向けとして作っていたようだとも語られています。
運営は玄人向けと承知のうえで、真価が見えにくい形のまま出していたと読むこともできます。
そして真価が判明すると、重騎士は今度はバランスブレイカーと呼ばれるようになります。
エルマが第二話で、知らないうちに壊れ性能が修正されていないかと心配しているので、少なくとも前世で遊んでいた時点では強さが残っていたと読めます。
調整という面では、5年間の不遇と、そのあとも壊れ性能が残っていたらしいことの両方が減点材料です。
ただ筆者は、この放置を単なる怠慢とは見ていません。
最弱とされたネタツリーが検証で最強に変わる体験は、それ自体が長く遊ばれる理由になるからです。
エルマ自身がメインキャラを捨てて乗り換えたという話も、発見の興奮を物語っています。
経験値の配分|攻撃力の低いクラスは本当に損をするのか
次に、与ダメージで経験値が割り振られるとされる仕様を確かめます。
先に断っておくと、原作に配分の計算式は書かれていません。
確認できるのは、仲間が多いと経験値が分散すること、レベル差が開くと一気に減ることです。
第二十話では、3レベル下の魔物でもエルマの取得量がかなり減っていました。
配分については、描写から推測するしかありません。
第十一話では、トドメを刺したゴウタンに経験値の多くが流れたはずだとエルマが考えつつ、自分にも大量に入っています。
第二章では、狩人のケルトがダメージを稼いで経験値とドロップを狙っていると見抜かれ、トドメの横取りも指摘されます。
第三章では、僧侶のメアベルが戦闘貢献を稼ぎにくい立場だからレベルが上がらなかったと説明されます。
これらを合わせると、与ダメージかトドメか、攻撃に関わるほど多く入る仕組みだと考えるのが自然でしょう。
回復役本人が、自分のクラスはレベルの上がりが遅いと認めている点も見逃せません。
守りや回復がパーティーを支えても報酬に反映されにくいのは、理不尽と言われても仕方ない部分です。
一方で、この仕様はゲーム全体の方針とは矛盾していません。
〈マジックワールド〉は、格上を狩らないと強くなれないというルールで一貫しています。
第三章でも、デスペナルティと効率を天秤に掛けること自体が楽しみの一つだったと語られます。
攻撃に関わった人を優遇するのは、その方針を経験値の面でも徹底した結果です。
不親切ではあっても、気まぐれな仕様ではありません。
称号〈番狂わせ〉|レベルが低いほど得をする「証」の取得条件
ゲーム好きが引っかかりやすいのが、称号の取得条件です。
称号の説明文は、何々した証という形で書かれています。
代表が〈番狂わせ〉で、パーティー2名以下、推奨レベルの7割以下で〈夢の主〉を倒すと手に入り、格上との戦闘で攻撃力と素早さが15%上がります。
第三十二話のエルマは【Lv:33】で、推奨レベル50の〈天使の玩具箱〉の主を倒して取得しました。
エルマは、いつか必ず取らなければならない称号だとまで考えています。
育成の必須要素なのに、強くなるほど条件から遠ざかるように見える点は、たしかに理不尽です。
ただし条件は推奨レベルとの比率なので、原作を読む限り、レベルを上げたら二度と取れないとは書かれていません。
エルマも、もっと安全に条件を満たせる機会に取るつもりだったと振り返っています。
筆者が読むかぎり、この称号は取り逃しの罠というより、安全に狙える時期を見極める計画性のテストです。
もう一つの〈不動の者〉は、攻撃行動を取らずに魔物を10体以上倒すと得られ、静止時の防御力が10%上がります。
攻撃せずに倒すという奇妙な条件は、カウンターで戦う重騎士の遊び方と噛み合っています。
条件を知らなければ気づけない一方で、知っていれば序盤から狙って取れるわけです。
称号はスキルやスキルツリーを得る条件になることもあるので、情報の有無がそのまま差になります。
〈城壁返し〉とMP|Lv8でもMPが減っていないカウンター
MPを使わないスキルが強すぎるという指摘も、ゲーム目線では気になるところです。
原作に〈城壁返し〉のMP消費なしと明記された箇所は、筆者の確認した範囲では見つかりませんでした。
手がかりは第三話のステータスで、【Lv:1】のときMP4だったエルマが、〈城壁返し〉で魔物を倒し続けた【Lv:8】でもMPは4/11のままです。
これを見るかぎり、少なくともMPは減っていないと考えられます。
第十三話では、ゲーム初期に重騎士が魔物の群れで〈城壁返し〉を連打する戦法で知られ、雑魚狩りの置き石と呼ばれていたとも語られます。
MPが本当に減らないのなら、序盤に限ってはノーコストで狩りを続けられる強力な手段です。
それでも壊れにならないのは、ブレーキが2つあるからです。
1つは格下から得られる経験値が激減すること、もう1つは高レベルの魔物が見え見えのカウンターに掛からなくなることです。
ダメージ計算式も攻撃力から防御力の半分を引く形なので、完封は格下相手でしか成立しません。
無料で撃てるスキルに、効く相手の狭さという代償を付けているわけで、ここは調整としてよくできていると筆者は評価します。
スキルポイントと名誉点|本当に理不尽なのは取り返しのつかなさ
筆者が一番クソゲーらしいと感じるのは、派手な不遇クラスではなく育成の不可逆性です。
スキルツリーは基本的に3つまでで、入れ替えると費やしたスキルポイントは返ってきません。
第四話では、構成に失敗して引退する人も多かったとはっきり書かれています。
第十七話でも、ステータスの割り振りを誤ると格下しか狩れなくなる事態が初心者によく起きたと語られます。
さらに厳しいのが、第六話で明かされる上限です。
〈重鎧の誓い〉にポイントを振れる量には制限があり、E級冒険者になるまで【16】以上は振れません。
その実体は名誉点という隠しパラメーターで、エルマは取り返しのつかない要素でこんな縛りをしないでほしいと愚痴をこぼしています。
隠しパラメーターでいえば幸運力も同様で、第三章によると、確かめるにはスキルを百回近く発動して偏りを調べる必要があります。
育成の根幹に関わる数値をプレイヤーに見せないのは、どう擁護しても不親切です。
それを補っていたのが、攻略サイトやクラスアドバイザーを名乗る相談役のプレイヤーでした。
しかし第二章第二話によれば、アップデートの細かい調整まで把握するのは難しく、大半のアドバイザーが恨みを買って引退しています。
外部の有志に説明役を丸投げしている構造は、ゲーム運営としては褒められません。
存在進化と〈夢の主〉|ダンジョンボスの設計は理不尽か
ボス周りは評価が分かれます。
まず不満が出そうなのが〈王の彷徨〉で、誰かが〈夢の主〉に挑んでほとんど傷を与えられず逃げると、主が奥地を離れて徘徊を始めます。
他人の敗走のツケが、居合わせた別の冒険者に回ってくるかもしれない仕様です。
存在進化も、発生条件が細かい行動や乱数に左右され、第九話では結局は運が悪かったと片付けられています。
第二章では、デスアームドへの進化には冒険者の死骸と魔石を喰らうことが土台になると語られますが、全魔物の条件はゲームでも解明されていません。
面白いのは、重騎士の真価を5年越しで解き明かしたプレイヤーたちが、存在進化の検証にはあまり手を付けなかった点です。
苦労のわりに得るものが少なく、適正レベルのダンジョンに入ったほうが早いからだと説明されています。
筆者はここに、この作品のプレイヤー像がよく出ていると考えます。
彼らが解き明かすのは得になる部分だけで、割に合わない部分は謎のまま残るわけです。
一方で、ボスは攻略の余地を残して作られています。
〈王の彷徨〉中の主はダンジョンの外へ出ないので逃げ道があります。
岩蜈蚣は岩塊だらけの地形に身体が引っ掛かる弱点を抱え、プレイヤーからもっと頑張れと応援されていたほどです。
第四章の天運のスカラベのように、超レアドロップに目がくらんだプレイヤーを次々とデスペナルティに追い込む魔物までいます。
知識で対処できる理不尽と、欲に負けた者が痛い目を見る罠が用意されている点は、やり込みゲームとしてよくできています。
やり込みゲームの筋|毒ゾンビ型魔剣士と〈死神の凶手〉が示す奥深さ
ここまで不親切な点を並べましたが、〈マジックワールド〉には良作と呼べる根拠もはっきりあります。
その筆頭が、ビルドの発見が環境を変えていく構造です。
〈ポイゾウーズの心〉は稀少なだけのネタ枠のはずが、〈毒ダメージ反転〉が混ざっていたことで大騒ぎになったと第三章で語られます。
デメリット装備の毒を回復に変え、魔剣士の専用スキルにつなげる毒ゾンビ型は、組み合わせを見つける楽しさそのものです。
〈死神の凶手〉も、ぶっ壊れと言われながら運に左右される弱点から習得者が少ないスキルツリーでした。
豪運持ちの道化師なら弱点が消えるので、原作では「手に入れるまでがチュートリアル」とまで表現されています。
クリティカルについても、第二十五話によると技術だけで安定すると崩壊するため、幸運力に応じた確率が組み込まれました。
開発側は人間の反射神経の限界から逆算して調整していたという話まで出てきます。
雑な運営なら、こうした細かい作り込みはできないはずです。
スキルツリーをアイテムや聖職者系のスキルで増やせる自由度も、第四話で人気要素として挙げられています。
サービス開始から5年後にまだ新しい最強が見つかるゲームは、それだけ底が深く、遊び続けられていたと言えるでしょう。
筆者の判定|マジックワールドは新規に厳しい良作、その欠点が物語を動かす
最初の3つの物差しで整理します。
努力が無駄になりにくいかという点では、不可逆な育成が響いて不合格です。
必要な情報に手が届くかという点でも、隠しパラメーターと外部頼みの情報で不合格です。
ルールが一貫しているかという点では、格上を狩るという軸がすべての仕様を貫いていて合格です。
筆者の判定は、初心者にはクソゲー、解析を楽しめる人には良作という二面性を持ったゲームです。
ただ、ここからが本当に言いたいことです。
このゲームの欠点をすべて直すと、物語のほうが成り立たなくなります。
隠しパラメーターが画面に表示され、スキルポイントを振り直せて、経験値が公平に配られるゲームなら、ルーチェは手詰まりにならず、パーティーを追い出されることもなかったでしょう。
重騎士が最初から強いと分かっていれば、エルマが追放されることもありません。
知識を持つ者だけが遊べる設計が、そのまま格差を生み、その格差を埋めるエルマの逆転が物語の面白さになっています。
親切なゲームでは、ゲーム知識に値打ちは生まれないのです。
さらに筆者が見ているのは、知識の値段の変化です。
前世では攻略サイトを開けば誰でも読めた情報が、この世界ではエルマしか持たない武器に変わりました。
開発者が放置した不親切さの分だけ、読者が味わう逆転の爽快感は大きくなります。
ゲームとしては欠点でも、物語の素材としては最高の仕様だったと筆者は考えています。
作品の基本設定はTVアニメ公式サイト(TVアニメ「追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する」公式サイト)のあらすじ、ゲームの仕様は小説家になろう版『大ハズレだと追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する』第一章から第四章の本文をもとに確認しています。
漫画版での描かれ方は、講談社のコミックスやコミックDAYSで本編を確認してください。
まとめ|マジックワールドは初心者に厳しく解析好きに優しい良作
〈マジックワールド〉は、重騎士の真価が判明するまで5年掛かり、取り返しのつかない育成や隠しパラメーターも抱えた、初心者に厳しいゲームです。
経験値の配分式は原作で明かされていませんが、攻撃に関わるほど得をすると読める描写が重なり、守りや回復は損をしやすいと考えられます。
一方で、〈番狂わせ〉の条件や〈城壁返し〉のブレーキ、毒ゾンビ型のようなビルドの発見には、やり込みゲームとしての筋が通っています。
筆者は、初心者にはクソゲーでも解析好きには良作であり、その不親切さこそがエルマの逆転劇を生んでいると考えています。
クラスごとの不遇の中身が気になる人は『追放された転生重騎士 クラス一覧考察|重騎士より不遇なクラスはあるのか』もあわせて読んでみてください。
追放された転生重騎士はゲーム知識で無双するをコマで読み返すなら
ここで書いた読み方を頭に入れて読み返すと、同じ場面でも見えてくるものが変わります。DMMブックスなら試し読みから電子で読めます。
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